前回までのあひるの空
試合終了まであと0.2秒―――。
妙院高校のDFファウルによって空に3本のF・Tが与えられた前回。
はりつめる空気、残り0.2秒のプレッシャー。
「3本も決められるわけがない」
会場にいる誰もがそう思っていたでしょう。
そう、九頭竜高校のメンバーと読者以外は。
空は見事に3本のF・Tを決め、タイムアップ。
九頭竜高校は見事に妙院高校を下したのでした。
しかし、九頭竜高校は文字通りの満身創痍。
百春の足の怪我、トビの膝の不調。
ミチロウも成長していますが、DFに不安は残ったままです。
課題を抱えたまま、九頭竜高校はどこまで行けるのか。
特に、百春の怪我は今後の展開に大きく影響してくることが予想されるだけに、やきもきしながらこの50巻を待っていた読者は多いはず。
果たして、次の試合に百春は出場できるのか?
あひるの空50巻ネタバレ・あらすじ
「どうせ一年だけのチームやろしな」
試合終了後、妙院高校の錦戸監督と言葉を交わす、九頭竜高校監督車谷智久。
そこで智久は、錦戸監督から手厳しい一言をもらいます。
これが最後になっても構わないと、常に全力で勝負に挑むメンバー。
彼らは選手生命を縮めながら先へ先へと進んで行く。
その情熱が孕む危険性を智久も充分に理解していたのでしょう。
「あんな選手の使い方しとったらアカン」と指摘され、動揺している様子です。
その後錦戸監督は「大事なこと」を智久に教えますが、この台詞は意図的に割愛されています。
これまでのあひるの空を振り返ると、後の試合で重要な言葉になってきそうですね。
準々決勝は因縁の相手
第299話の最後で、準々決勝の相手が横浜大栄高校であることがわかります。
九頭竜高校と横浜大栄の過去を知っている読者ならば、「きたぁーーー!」と震えがくる展開ですね。
横浜大栄のメンバーも、九頭竜高校が相手とわかり色々と思うところがあるよう。
空の宿敵は同じ小柄のシューター上木鷹山ですが、彼はどことなく嬉しそうです。
百春や千秋、トビと空は戦意が漲っていますが、以前大敗したことを考えるとどのような試合展開になるのかが楽しみです。
茂吉の恋の行方
300話は茂吉の回顧シーンから始まります。
妙院戦で何も残せず、何も繋げなかったと悔いる茂吉。
シリアスになりがちな展開ですが、日向先生の手腕といいますか、静と動をくるくると織り交ぜてありテンポよく話が進んで行きます。
あひるの空では登場人物それぞれの恋愛模様が見られますが、今回は茂吉の恋が大きく前進した巻と言えます。
好意を寄せていた月島先輩に告白しなかったことが、ずっと気掛かりになっていたらしい茂吉。
驚いたことに、妙院戦で倒れた茂吉を控室で介抱していたのは、なんとその月島先輩でした。
意識を取り戻し、試合はどうなったのかと混乱する茂吉の傍らに座る女性。思わず「芳幸さ…」と名を呼びますが、それは月島先輩なんです。
もうこれが、すべてを物語っていたように思います。
茂吉の気持ちは、とっくに芳幸愛に傾いていたんですね。
月島先輩への気持ちに区切りをつけた茂吉は、話があるという芳幸に告白します。
下駄箱での告白だったので、途中で下校する生徒の茶々が入り、彼女の答えはわからないまま芳幸の話へと続きます。
私は芳幸の話も茂吉への告白かとドキドキしていたのですが、バスケ部のマネージャーになる誘いを断るつもりだという話でした。
はっきりとした台詞はありませんが、どうやら持病がある(心臓が弱いのか?)と思わせる描写があります。
自分が原因で皆に迷惑を掛けたくないという、彼女なりの思いが表れていますね。
このあとの二人のやりとりを見ていると、この恋の行方はなんとなくわかるような。
百春と同じように、茂吉にも春が訪れるのかも知れません。
小南真琴、バッシュの紐を切った疑惑
50巻では、妙院戦直前にあった真琴の行動の真相も描かれています。
空のバッシュの紐に、カッターの刃を近付ける真琴の姿が以前の巻に描かれていました。この卑劣すぎる行動に憤慨した読者は私だけではないでしょう。
彼女は芳幸に付き添われながら、部活が始まる前の体育館で空に謝罪します。
これに激昂したのが、空…ではなく、双子の兄である小南ハルオ。
「今日限りで兄妹の縁を切る」と言われ、真琴の眼からは大粒の涙が。
私も経験がありますが、もちろんやった方が悪いんですが、ひたすら正論で責められるとすごくつらいんですよね。家族だからこそ素直に聞けなかったりもするわけで。
空がフォローしようとしますが、ハルオは「口出ししないでくれますか」と一刀両断。
ハイしませんと言っちゃう空……おいおい。
ここでナイスフォローをしたのがアキラです。
自分も同じようなことをしたと告白。
これはすごいですね。
もちろん過去のことで、空に対してのことではありませんが、自分の卑怯な行動を皆に知らせるのは勇気のいることだと思います。
結局、途中から乱入して来た千秋によって、真琴は空のバッシュの紐を切ってなどいないことが明かされます。
ハルオは納得がいかないようでしたが、「その感情を咎める人間も、その資格がいる」という千秋の言葉はすごく心に残りました。
人ってそれほど綺麗な生き物じゃないんですよね。嫉妬や悪意など、醜い感情を持ったことがあるはずです。そういう行為や感情を責めたくなる気持ちはわかりますが、言葉は選ばなければいけませんね。
しかし、一件落着かと思いきや、もっと重大な事がここで判明します。
真琴はバッシュの紐を切ってはいませんでしたが、空の大事なリストバンドを捨ててしまっていたのです。
これはまどかから貰ったもので、空にとっては宝物。
それを捨ててしまうなんて…と私は結構衝撃を受けたのですが、空は「じゃあしょうがない」と真琴を責めるようなことはしません。
空のすごいところはこういうところですね…私はきっと無理です。
この話のあと、真琴は智久に誘われてバスケ部のマネージャーになります。
変化は色々なところに
一見、うまくまとまっているようだった女子バスケ部ですが、キャプテンの新見の力不足が浮き彫りに。
有望な一年生が新たに入部し、部内の雰囲気に変化が訪れます。
すでに女子バスを引退した洋子はその様子に「もうここは、私達の知ってる場所じゃないんだな…」と寂しそう。
だからこその忠告だったかも知れません。
4番の新見を代えた方がいいと。
この言葉に、智久は練習メニューを新見に一任するなど、軽くはない責任を負わせます。
これでどう新見が変わっていくのか、今後に期待しましょう。
そしてこれは、個人的に一番衝撃的だったこと。
五月先生がバスケ部を離れる―――!
新しく創設される書道部の顧問となるそうです。
もちろん総体が終わるまではそのままバスケ部の顧問を続けてくれるそうですが、百春を誰よりも気に掛けている様子だった五月先生がバスケ部を去るのはとても寂しいですね。
男子バスケ部のメンバーはまだこのことを知らないようです。
真琴に思いを寄せるアキラが、いいところを見せようと空にシューティングのコツを聞くなどしています。
動機はどうあれ、戦力がレベルアップすることは今後のバスケ部にとって良い方向に働くでしょう。
ちなみに足を怪我した百春は練習に参加しており、空に「心配して損した」と言われています。
試合には出られるようですね。
ただ、あれほど痛みがあった足がそんなに都合よく治るものなのか…智久も怪しんでいますが、どちらにせよ横浜大栄戦は百春がいなければ玉砕するのは目に見えていますから、百春が大丈夫と言う以上は出場させるでしょう。
これが試合にどう絡んでくるのか、読者としては次巻をハラハラしながら待つしかないようです。
「あひるの空」50巻の感想
あひるの空の特徴と言えますが、今回の巻も話が時系列に並んでいるわけではなく、多少混乱することがありました。
ネタバレではわかりやすくするために、あえて人物を中心にしてまとめています。
49巻は怒涛の試合内容でしたが、50巻は恋愛色が強かったですね。
芳幸への茂吉の思い。
空への真琴の思い。
そしてちょこっとですが、アキラが真琴へ思いを寄せている描写もありました。
スポーツ一辺倒にならないところが、この漫画のリアルな部分だと思います。
部活に打ち込んでいても、それと恋とは別。
青春は色んなところに転がっているわけです。
時間だって、主人公だけの時間で世界が進んで行くわけじゃない。
登場する人物一人一人にストーリーがある。この現実感をいつも以上に楽しめた1冊でした。
結果については、すでに以前の巻で横浜大栄が九頭竜高校に勝つことが判明しています。
先が読めないからこそ面白い、という漫画の常道を突き破った日向先生が、どんなあひるの空ワールドを展開してくれるのか。
次巻が楽しみではありますが、既刊巻末で最終話の予告がされたことを考えると、あひるの空との別れがすぐそこまで来ているようで、なんとなく寂しさを覚えますね。
なにはともあれ、51巻を待ちたいと思います。