話題沸騰中の水城せとな先生のBL漫画で実写映画化された傑作、「窮鼠はチーズの夢を見る」の原作漫画のネタバレです。
関ジャニ∞の大倉忠義くんと人気俳優・成田凌さんが主演の二人を演じる実写映画が昨年公開され、今年はサブスクにも登場しました。
今回映画化された最大のポイントは、私はおそらく他のBL作品と一線を画すリアルさにあるのではないかと考えています。
サラリーマン同士の大人な恋愛……ではなく、スマートとは程遠い〝真実の恋〟が描かれた作品『窮鼠はチーズの夢を見る』。
原作漫画も楽しみましょう。
「窮鼠はチーズの夢を見る」のネタバレとあらすじ
恭一と今ヶ瀬の再会
何事にも極度に流されやすい恭一。
端正な顔立ちをした既婚者でありながら、何度も不倫を重ねていました。
自分を愛してくれるなら誰でもいい、という性格なのです。
ある日訪ねてきたのは、浮気調査の結果を携えた、大学の後輩である今ヶ瀬。
恭一の妻は浮気を疑って、調査会社に依頼していたのです。
7年ぶりに再会した今ヶ瀬は、恭一に取引を持ちかけます。
「調査結果をシロと報告しましょうか? 貴方の身体と引き換えに」
後輩の今ヶ瀬がゲイだと知り、動揺する恭一でしたが、ためらいながらも、ホテルの一室にてキスを受け入れます。
結局舌を入れられることを拒み、取引は終わった、、と思っていた恭一。
ところが、再度不倫をした後に、今ヶ瀬がまた証拠を持って現れたのでした。
ホテルの一室で、
「キスだけって約束だろ…!」
と抗議しますが「どこに、というのは決まってない」と今ヶ瀬は告げて、下半身への愛撫が始まります。
ただ寝ているだけで、たっぷりと愛される。
そのことに、恭一は快楽を感じてしまうのでした。
後日、男と親密に過ごす今ヶ瀬を目撃した恭一の心は揺れ動き、嫉妬の感情を抱いたまま、自分から今ヶ瀬をホテルに呼び出してしまいます。
自分のことが好きではなかったのか、と問いかける恭一に、今ヶ瀬は過去を打ち明けます。
男女問わず、恭一と会話した相手には嫉妬してきたこと。
一日中ずっと恭一のことを考えていて、おかしくなりそうだったこと。
7年間会わずにいて、その間ずっと独りでいないといけなかったのかと告げる今ヶ瀬に、恭一は激昂し、「浮気調査の結果も妻に言えばいい」と啖呵を切って別れてしまったのでした。
しかし、帰宅すると、既に妻は離婚届を用意していました。
妻は最初から離婚するつもりだった。今ヶ瀬はそれを知っていたんじゃないか。
恭一は電話で、今ヶ瀬を詰ります。
離婚したくないから取引に応じた、と言わんばかりの恭一に、妻との生活が大事だったから取引したのでは、と返す今ヶ瀬。
そこで、恭一は思ってもみない反論をしてしまいます。
「応じたのは、俺を大事に思ってくれていたからだ!」
既に、本人も気づかないうちに、恭一の恋は始まっていたのです。
思わぬ展開にショックを受けている恭一に、「離婚になったのは俺のせいだと思えばいい」と言って、通話を終える今ヶ瀬。
酷い喪失感を抱えつつ、恭一は眠りに落ちるのでした。
終わりそうで終わらない二人の関係
ある日、離婚して引っ越しを終えた恭一の部屋に、今ヶ瀬がやってきます。
先日の電話がきっかけで、今ヶ瀬が恋人と別れたことを知った恭一は、「週末や連休を一緒に過ごそう」という提案を拒みません。
最後の一線は越えないながら、今ヶ瀬はすっかり恭一の家に住みついてしまいます。家事全般を担い、出勤前にキスしてくる今ヶ瀬。まるで新婚生活のようで、心身ともに流されていることを恭一は自覚します。
そんな折、同窓会で会った人妻に誘われて恭一はいつものように関係を持ちます。
けれど、頭に浮かぶのは今ヶ瀬のことばかり。
後ろめたさを感じた恭一は、帰宅して「上司と飲んでいた」と嘘をつきます。
今ヶ瀬は、しかしそれを見破っていました。
恭一は「盛り上がっただけで恋愛ではない」と言い訳します。それは、行きずりの関係を持ったこともある今ヶ瀬も同じだろうと。
しかし、今ヶ瀬にとって、それは違うものなのです。
今ヶ瀬は、抱える重い恋心に耐えられなくなり、苦しんで別の人と関係を持った。
けれど、恭一は流されただけ。
この差を理解しない恭一に憤った今ヶ瀬は、部屋を出て行ってしまいます。
「本当の恋を知らないんですね…!」という台詞を残して。
それから一週間たっても、今ヶ瀬からは何の連絡もありません。
悶々と今ヶ瀬のことばかり考えてしまう恭一。
それでも、女性から誘いがあるとフラフラ流されてしまいます。
訪れたホテルで、部屋から男と出て来る今ヶ瀬を見つけた恭一は、我慢できずに問い詰めます。
「愛してるだのなんだの言って」と短期間での心変わりを責めますが、なんと今ヶ瀬は調査会社の「仕事中」でした。相手はただの依頼人だったのです。
その後、恭一の部屋の前で「やらせてくれるなら」と部屋に入る条件を告げる今ヶ瀬。
関係を持つことを拒みつつも、今ヶ瀬を引き留めてしまう恭一。
覚悟を決めて、今ヶ瀬に口での奉仕を始めます。。
事を終えて、感極まった今ヶ瀬とは対照的に、自分から積極的にしてしまったことに動揺する恭一。
「貴方もいつか本当の恋をしますよ」と今ヶ瀬は告げます。
「それまで、俺と遊んでください」というのが、恋人になってくれない恭一への提案でした。
障害を乗り超える度に、大きくなっていく今ヶ瀬の存在
一線を越えないまま、同じ時間を過ごす恭一と今ヶ瀬。
恭一の元カノと今ヶ瀬の元恋人が、それぞれアプローチをかけてきます。
元カノである夏生を前にして、心が今ヶ瀬の方向に向いていることを意識する恭一。
これまで人に執着をしたことはないのに、離れようとする今ヶ瀬を追いかけ、自分から近づいていきます。
しかし、女性である夏生の存在は、今ヶ瀬にとって大きな脅威でした。
「もう限界です。俺と寝てください」
そう体の関係を迫られ、それでも決断できない恭一。
その夜、今ヶ瀬は荷物と一緒に部屋から消えてしまいます。
携帯も解約され、残ったのは灰皿のなかの吸い殻だけでした。。
会いたくても会えない状況が、想いを浮き彫りに
それから二ヶ月。
喪失感を感じつつ夏生と付き合っていた恭一は、降りしきる雨のなか、タクシー乗り場で今ヶ瀬を見つけます。
思わず同じタクシーに乗り込んで声をかけるも、すっかり「後輩」に戻ってしまった今ヶ瀬。
挑発してみる恭一ですが、今ヶ瀬は冷静で、以前のように恋心を語るような口論にはなりませんでした。
あしらう台詞を受けた恭一は、諦めを口にします。
今ヶ瀬が唯一残していった吸い殻を、いまだに捨てられないこと。帰ったらそれを捨てて、全部終わりにするということ。
「来る者拒まず去る者追わず」だった恭一は、最初は今ヶ瀬を拒み、今は追いかける立場になったことを理解します。
その変化を受け入れることができても、もう全てが遅すぎたのだと。
「馬鹿だな」という恭一の自嘲が引き金となり、今ヶ瀬の本心が暴かれます。
「俺はずっと待っていた…!」
携帯を解約したのだから、来るはずのない連絡。
それでも期待してしまい、食事もとれず、仕事も手につかない日々。
これまで迷走してきた恭一を、許そうとしたり許せなかったりと苦しんだ今ヶ瀬の抱える恋心を、恭一も理解します。
激しく口付けを交わした二人は、恭一の部屋でついに一線を越えることに。
今ヶ瀬の丁寧な愛撫を受けながら、ゆっくりと快楽に酔い痴れていく恭一。
受け入れる自分を許したとき、今ヶ瀬との激しい情愛の時間を過ごすことができたのでした。
翌朝も降り続く雨の中、古い吸い殻を捨て、新しい吸い殻を灰皿に残す今ヶ瀬。
ここで恭一は夏生との関係を終えて、今ヶ瀬をはっきりと選びます。
「これから溺れていくのかな」
今ヶ瀬の口付けを受けながら、恭一はぼんやりと考えます。
まだ何も決まっていない二人の未来が、ここから始まるのでした。
(完)
「窮鼠はチーズの夢を見る」の原作漫画を読んで
恋の生まれる瞬間を目の当たりに
この「窮鼠はチーズの夢を見る」の感想を正直に述べると、、
これは「買って絶・対・に 損はしない!」と、太鼓判を押せるコミックスでした。
少女向けではなく女性向けの雑誌に連載されていたのですが、まさに執念すら思わせるような大人の恋だと言えるでしょう。
冒頭から中盤にかけては、ひたすら今ヶ瀬の恭一に対する強い想いを感じさせられますが、不思議なことに主人公の恭一にほとんど魅力を感じません。
正直に言うと、なぜ今ヶ瀬がこれほどまでに、優柔不断で流されやすい恭一に激しい恋情をもつのかわかりませんでしたが、作中で、それらを匂わせる今ヶ瀬自身の台詞もあり、よく考えると恋とはそういうものなのかも知れません。
相手の欠点を知ってなお、消えることのない想い。
貞操観念の緩い恭一の行動に胸を焦がしヒステリックに詰る今ヶ瀬の姿は、一途過ぎる恋のもつ狂気を感じさせました。
一方で、「本当の恋を知らない」とまで今ヶ瀬に言われてしまった恭一の心の変化が手に取るようにわかるので、読者はどんどん恭一に魅了されていきます。
自分はゲイではないからと、常に今ヶ瀬と一定の距離を置いていた恭一が、徐々に今ヶ瀬のことばかりしか考えられなくなっていく様が、非常にリアルです。
心だけではなく、体も自分のものにしたい
そのひとのすべてが欲しい
そんな激しい恋が産声を上げる瞬間を、読者は目にすることが出来る、この「窮鼠はチーズの夢を見る」は間違いなく
BL漫画史上、傑作中の傑作
と言っていいでしょう。
続編、『俎上の鯉は二度跳ねる』も楽しみでなりません。