「氷の仮面」、「拳に聞け!」の作者、塩田武士さんの傑作「罪の声」。
2016文春ミステリー大賞国内作品1位を獲得。
2020年10月に公開予定の小栗旬さんと星野源さんを主演とした映画『罪の声』の原作の小説です。
(※漫画版もあります!)
今回の本は1984年におこった未曾有の未解決事件、『グリコ・森永事件』を題材にした作品で、劇場型犯罪と呼ばれた難しい未解決事件ではありますが、塩田さんの着眼点が面白く、フィクションでありながら「もしかしたらこれが真相なのかもしれない」と思わせるほどの作品でした。
以下、最初におおまかなあらすじを、その後にネタバレとして結末や犯人を記していきます。
そして最後に感想を語るレビュー記事となりますのでご了承ください。
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小説『罪の声』あらすじとネタバレ
登場人物とポイント
最初にわかりやすく物語のポイントを表と箇条書きで説明します。
事件名 | 犯人名称 | |
実際の事件 | グリコ・森永事件 | かい人21面相 |
小説『罪の声』 | ギンガ・萬堂事件 | くら魔天狗 |
- カセットテープの声の主は3人の子供
- 事件は31年前に起こされたもの
主人公
- 曽根 俊也(そねとしや)・・・親子二代続くテーラー
- 阿久津英士(あくつえいじ)・・記者となっています。
『罪の声』のあらすじ
それはテーラーの自宅から始まった
入院中の母にアルバムを持ってきて欲しいと頼まれた曽根俊也は、アルバムを探している最中、父の遺品であろう古びた黒いノートとカセットテープを見つけます。
興味本位で聞いてみたテープの中には、なぜかギンガ・萬堂事件の脅迫に使われた子供の声が入っており、そして黒いノートには英語で何やら書きつぶされていました。
ギンガ・萬堂事件とは、六社の食品系メーカーに挑戦状や脅迫文を送って身代金を要求した昭和最大の未解決事件。
なんとそこに録音されていた声は紛れもなく幼い頃の自分の声であり、しかも黒いノートを読み解いていくと、中には事件に関する様々な内容が書いてありました。
どうして自分の声が入っているのか、を疑問に思った俊也は、もしかしたらギンガ・萬堂事件は身内の犯行ではないのかと思い、父の古くからの知り合いである堀田に協力してもらい事件の真相に迫っていくのです。
出版社にて
その頃もう一人の主人公・阿久津英士は、上司に呼び出され年末の企画でやる未解決事件特集(ギンガ・萬堂事件)について調べて来いといわれます。
初めのうちは、昔の未解決事件の情報なんて出てこないだろうとイヤイヤ調べていた阿久津ですが、調べていくうちに真相に近づく情報が次々と現れてきて、それを追っていくうちに徐々に真相に近づいていきます。
そうして阿久津は調べていくうちにテープの声の主、俊也の存在を知り接触しようと試みるのでした。
『罪の声』の犯人、事件の真相、そして結末のネタバレ
これ以降は事件の真相と犯人(くら魔天狗)のネタバレとなりますので理解の上でお読みください。
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物語は、序盤は犯人を探し当てるのと真相解明を中心に展開していきましたが、後半からはテープに使われた子供の捜索、悲しい回想エピソードとなっていきます。。
最初に言ってしまいますが、、
犯人(くらま天狗)は俊也の伯父となる曽根達雄であり、達雄を筆頭に9人のグループで行われたものでした。
犯行の目的
主な犯行目的は金儲けのため。
しかし、曽根達雄の犯行理由だけが金だけではなく、社会に対しての復讐のようなぼんやりとした理由での犯行となっています。
頭が切れる達雄だけにもっと大義的な理由かと思いましたが違いました。
何でこんな人が事件を起こせたのかなと思いましたが、大胆なことをする人は意外とちっぽけな理由で犯行を犯すものなのか?とも感じました。
犯行グループについて
犯行を行ったグループ・くら魔天狗は9人と言いましたがそれぞれに役割があります。
9人を全員出しますと
名 前 | 人物像 | 犯行の役割 | |
1 | 曽根達雄 | 俊也の伯父 | 計画立案 |
2 | 生島秀樹 | 元刑事 | 人集め |
3 | 山下満 | 生島の高校の後輩 | 青酸入手 |
4 | 谷敏男 | 電話系の職員 | 無線傍受 |
5 | 青木龍一 | 経済ヤクザ | ハブ役 |
6 | 金田哲司 | 青木と知り合い | 自動車盗 |
7 | 吉高弘行 | 株に詳しい | 仕手屋 |
8 | 金田貴志 | キツネ目の男 | 現場担当 |
9 | 上東忠彦 | 建設関係の利権屋 | 金主 |
となっています。
実際の事件でもよく取り上げられていたキツネ目の男は金田貴志という名前で出ています。
ですが作中でも謎が多い人物で、特に詳しくも書かれないまま役を終えてしまいました。
主に現金受け渡し場所での監視役となっています。
事件の真相
計画を担当した曽根達雄は当初、青酸菓子や挑戦状、社長の誘拐などで株価を劇的に下げ、仕手屋の吉高と金主の上東の協力により大金を得ようとします。
しかし株で得た金以外にヤクザの青木が身代金を要求しようと言い出し、無茶な方法で受け取ろうと計画してしまいます。
達雄はうまくいかないと確信していたので、猛反対するも生島になだめられ結局身代金を要求することに。。
結果全ての受け取りは失敗に終わり、儲けは株で得た分だけになりました。
その失敗した身代金の件があり、グループは次第に不信感から分裂していき
- Aグループ 曽根達也、生島秀樹、山下満、谷敏男
- Bグループ 青木龍一、金田哲司、吉高弘行、金田貴志、上東忠彦
となってしまいます。
分裂の決め手となったのが儲け分の分配方法です。
儲け分は山分けのはずですがAグループに配られた分は少額。
おかしいと青木らに言いましたが、儲けが思ったよりでなかったといってあしらわれてしまいます。
生島はそれに怒りBグループの青木のもとへ抗議しに行きますが逆に殺されてしまいました。
中々帰ってこない生島が殺されたことを知った達雄は、このままでは生島の家族も口封じのために殺されてしまうと察し、生島の家族を保護。
そして県外にひっそりと住まわせます。
ただしその後はとくに世話をするではなく、金を渡して見捨ててしまいました。。
相反する犯人達の息子の人生
『実は逃げ続けることが人生だった』という副題はここからの内容。
生島の子供、聡一朗のことを指しています。
ここで捕捉情報ですが、カセットテープに使われた子供の名前は曽根俊也と生島望、生島聡一朗の三人です。
テーラー屋の息子として平穏な生活を送っていた俊也に対し、父親を殺された生島兄弟の人生は悲しいもので、姉の望は口封じのため殺されてしまい、弟の聡一朗は長く暗い人生を歩むことになります。
望が殺されたあと、母の千代子は組関係である建設会社の事務係として入れられ、聡一朗も同じビルに手伝いとして入れられ逃れられなくなってしまいます。
そして何年か仕事の手伝いなどをさせられ、組員にいじめられながらも日々を過ごしていました。
ところがある日転機が訪れ、組から逃げ出すチャンスができます。
しかし逃げ出せるのは聡一朗だけ、悩んだ挙句聡一朗は母を置いて逃げることにしました。
ここからが、おそらく逃げ続けた人生というところで聡一朗は様々な場所で職を変えながらなんとか生き延びていきます。
いつ青木組のものに見つかって殺されるかわからない状態、まさに死んだように生きてきたという言葉のような生活。
その間、組にとらわれている母には一度も会えず、母を置いて逃げてしまったことを後悔しながら生き続けます。
ですが最後は阿久津と真実を知った俊也が聡一朗を見つけ出し、総一朗が母親に再会できたところで物語は幕を閉じるのです。
罪の声(原作)を読んだ感想
実際に起った『グリコ・森永事件』は未だ未解決事件ではありますが、作者の塩田武士さん抜群の考察とストーリー展開で、作中で『ギンガ萬堂事件』として真相を暴き出しています。
そして事件の真相だけではなくそれ以外の事(テープに使われた子供の事)などに重きを置く着眼点と練り込まれた構成に唸らせられました。
この作品は真相を探っていく中で俊哉側はそうでもないのですが、後半は阿久津側が非常に勘が冴えまくり、それによってほとんど阿久津によって解決されていきます。
作者の塩田武士さんが神戸の新聞記者だったようで、記者の阿久津のシーンですと ものすごく臨場感があり、阿久津の姿が作者の塩田さん自身のようにも感じられました。
少しだけ残念なところは達雄達の犯行理由が弱いかなというところ。
グリコ・森永事件という難しい未解決事件の真相も、本当のところは実はちっぽけな理由だったのかも、、と感じました。
(勝手に壮大なものを期待していただけなのでわがままいうなと言われそうですが、あくまで個人の感想と受け取ってください (;^_^A)
後半に語られる、犯人の子どものその後が大変悲しいものでしたので、感受性の強い方でしたら涙してしまうかもしれません。
幼い子が口封じのためなどに殺されてしまうのは、もう大変胸が痛んで読むのが辛かったです。
この事実は大人になった聡一朗自身から語られることなので、本人は想像を絶する辛さだろうなと感じさせられました。
この『罪の声』の原作小説は400ページにわたる作品ですが、少し飽きっぽい私でもなんなく読めるほど、ページをめくる手がどんどん早くなるほどに面白い作品となっています。
犯行動機においてだけは若干残念なところもありましたが、ストーリー展開の面白さは自信をもっておススメできる作品です。
小説以外にも読みやすい漫画版も出ています。
また、10月30日から小栗旬、星野源さんが主演での映画『罪の声』が公開されています。
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